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道尾秀介「シャドウ」の感想。図書館で借りた本。いろいろ目移りした中でこの本を選んだ決め手は、宝島社の「このミステリーがすごい!」2006年版のランキング。1位と2位が借りられていたので、3位の本書を借りたという次第。予め何も情報を入れないで読むのは久々である。もちろん道尾秀介作品を読むのも初めてだ。
読後感はスッキリとは言い難たい。かといって消化不良ではなく、ましてや途中で投げ出す内容では全くない。ほんの少しだけもやもやした澱みたいなもやもやが頭のなかに残っている感覚だ。本書の内容が精神病を題材に扱ったことと関係しているのかもしれない。一晩寝て、明くる日に本書のレビューを書いているのだが、時間をおいて振り返れば、さほどの引っかかりがあるわけでもない。きっと普段読み慣れないテーマが関係していたのだろう。アニメで例えるなら押井守監督作品全般。特に「イノセンス」を見終わった時と同じ感覚だ。ちなみに、「イノセンス」は2回見ることをお勧めする。さほど深い内容ではなく、単にまわりくどい雰囲気を醸し出しているだけであることが分かるはずだ。私は映像がわりと気に入ったので(攻殻好きというのも大きいけどね)DVDを買いました。お勧めしてるのだかしてないのだか分かりにくいかもしれないけど、実は前者の考えなのだ。
読んでいる最中はサクサクと読み進めることができる内容。途中で何度か立ち止ることがあり、戻って読み返したい衝動に駆られたが、ぐっと我慢して先に読み進むのが正解。最終的に全ての謎とフラグは回収されるので心配ありません。下手なアニメよりフラグの回収は上手なんじゃないかな。広げた風呂敷はきちんとたたむ作品。でも、最後の仕掛けが、やや叩き込みすぎだった気がしないでもない。もう少し時間をかけるなり、前振りに分散するなりしても良かったのではなかろうか。時間制約のある2時間ドラマの1時間30分過ぎみたいな印象を受けた。
ここからネタバレになるのでご注意を!
映画「39-刑法第三十九条-」をご存じでしょうか。刑法39条にいわく「責任能力のない者は罰しない程度によっては減刑の対象とする」です。責任能力とは物事を正常に判断できる能力、すなわり意思能力が備わっていることが必須条件になります。物事を正常に判断できる能力があれば、結果責任を負う能力がある。責任能力があれば、処罰の対象者となりうるという理屈。その逆もまたしかりです。責任能力の有無を判定するのは精神科医を始めとする専門家。世間を騒がせる猟奇的な大事件が起きると必ずといってよいくらい登場する人たちです。「○○容疑者の精神鑑定を行ったうえで〜」と報道されるアレです。精神科医といっても横綱・朝青龍の件を見れば分かるように、判定はまちまちです。彼の場合は責任能力うんぬんがテーマではありませんでしたが、判定する医者ごとに病名が違う。私の感想は「やっぱりね」でした。ストレスの多い現代社会ですから日本人の多くは何かしら問題を抱えています。皆が皆、お医者にかかれば何がしかの病名はつくそうです。正直なところ解明しきれていない分野でもあるので、本人が具合が悪いと主張すれば病名がついてしまう。医者も食う必要があるので、とりあえず病名をつける必要があるのかもしれません。まあ私の勘ぐりですけどね。長々と書いてきましたが、よーするに仕組みを理解していれば抜け道は幾らでもあるということ。ましてや性善説に基づいて専門家に丸投げされている分野なので、ノウハウを有する者にとって抜け道は太くて潜り抜けやすいというわけ。
洋一郎の行いは決して誉められるものではない。犯罪者に甘い日本の刑法は論外としても、厳罰で知られるハムラビ法典に照らしても同害報復以上と認定されるだろう。もちろん田地の行いは許すべきではない。しかるべき手続きに従い社会的制裁を与える必要がある。法に従うべきだが、肝心の法がまともに機能していない場合。あるいは証拠不足などの理由で相手を追い詰めるのが困難な場合。洋一郎のとった行動が認められる一定の余地があるのではないかとも思う。このあたりが私にスッキリした読後感を与えてくれなかった原因と思われます。復讐の後で警察に出頭し、病院からの退院ではなく刑務所からの出所シーンで物語で終わっていればスッキリできたんじゃないかな。